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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)2255号 判決

第二二五五号事件控訴人・第二二七三号事件被控訴人(原告)

渡辺成雄

ほか一名

第二二五五号事件被控訴人・第二二七三号事件控訴人(被告)

佐藤篤

ほか二名

主文

一  第一審原告らの控訴に基づき、原判決主文第二項を次のように変更する。

1  第一審被告らは、各自第一審原告らに対し、それぞれ金一七二万二五四一円及びこれに対する昭和五九年一一月一〇日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  第一審原告らのその余の請求を棄却する。

二  第一審被告らの控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を第一審原告らの、その余を第一審被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項の1に限り仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  第一審原告ら代理人は、「一 原判決中第一審原告ら敗訴の部分を取り消す。二 第一審被告らは、各自第一審原告らに対し、それぞれ金一三一六万二〇八一円及びこれに対する昭和五九年一一月一〇日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。三 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言並びに第一審被告らの控訴を棄却するとの判決を求めた。

2  第一審被告ら代理人は、「一 原判決中、第一審被告ら敗訴の部分を取り消す。二 第一審原告らの請求を棄却する。三 訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告らの負担とする。」との判決及び第一審原告らの控訴を棄却するとの判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係

1  当事者双方の主張及び証拠の関係は、当審における主張として2以下を付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

2  当審における第一審原告らの主張

(一)  本件事故における過失割合について

本件事故現場は、ほぼ直線道路であり、加害車と被害車との間に視野を妨げるものはなかつたのであるから、加害車の運転者(以下単に「加害者」ということがある。)が前方注視義務を十分につくしておれば被害車の動静を正確に把握することができ、その後の事態に対しても適切な対応ができたにもかかわらず、加害者は、対向車とすれちがう直前に被害車を認めながら、右対向車、左側の駐車車両、交差点左方入口に停車していた車両にばかり気をとられて、漫然と自車を交差点内に進め、衝突直前になつてはじめて被害車の右折中であることに気付いたという前方注視義務違反の重大な過失があること、また、本件事故現場である交差点は、日大の学生の通学等のための自動車、バイク等の出入りが多いのに交通整理も行なわれず、信号機も設置されていなかつたため、従前より交通事故の多発しているところであり、危険な交差点であることは同大学の学生である加害者も熟知していたのであるし、本件事故当時は、土曜日の昼頃で大学の下校時とも重なり一番混雑していた時間帯であるから特に減速をするなど慎重な運転をすべきであるのにもかかわらず、加害者は、あえて交差点の直前で急激な加速をしたという無謀運転をした重大な過失があること、被害車が原動機付自転車であるのに対し加害者の運転していた車は普通乗用車であつて他に危害を加える危険度が高いから、乗用車の運転に当たつては一般の自転車はもちろんのこと、原動機付自転車、バイク等の動向については十分に注意する必要があること、加害者側は何らの傷害も受けていないのに対し、被害車の運転者(以下単に「被害者」ということがある。)は即死という重大な結果となつていることなどを総合すれば、被害者嘉徳と加害者篤との過失割合は、少なくとも五分五分というべきである。

(二)  逸失利益の算出について

嘉徳は、本件事故当時は確かに満二〇才九か月の独身学生ではあつたが、約一年後には大学を卒業して社会人となり、更に数年後には結婚して扶養家族を持つ蓋然性が非常に強かつたのであるから、その逸失利益の現在額の算出に当たつての生活費控除率は、一家の支柱に準じて四〇パーセントとすべきである。

(三)  慰謝料について

嘉徳は、当時大学生として将来を嘱望されていたものである、また、嘉徳の両親として同人を事故死により失つた第一審原告らの無念さは容易に理解できるところであるから、嘉徳の死亡によるその固有の慰謝料としては、金一五〇〇万円、第一審原告らの固有の慰謝料としては、それぞれ金二五〇万円が相当である。

(四)  葬祭費について

第一審原告らは、葬祭費、墓碑建立費として少なくとも合計一〇三二万五四〇〇円を支出したが、本件事故により現住所地に永住せざるをえなくなつた関係上墓碑建立をせざるをえなくなつたのであるから、本件事故と因果関係のある損害として、葬祭費は、少なくとも金三〇〇万円は認められるべきである。

(五)  当審における第一審被告らの主張は争う

3  当審における第一審被告らの主張

(一)  第一審被告篤の無過失について

本件においては、被害車は、道路左端を右折の合図をしないまま走行していたところ、突然に右折したものであつて、加害者としては、これを予知し衝突を回避することは不可能であつた。時速四〇キロメートルで走行している場合に危険を感じて自動車を急停止させるためには約一六メートルの距離を要するところ、本件衝突地点の一六メートル手前の地点に加害車があつたときには、被害車はまだ全く右折の動向を示していなかつたのであるから、その後における突然の右折に対し、加害者においてこれとの衝突を回避する余地は全くなかつた。したがつて加害者である第一審被告篤は、本件事故については無過失である。

(二)  治療費の差引について

第一審原告らは、治療費の支払請求をしていないが、本件事故による損害について過失相殺がされる場合には、第一審被告らがすでに第一審原告らに支払ずみの治療費金一四万二三六五円は、第一審被告らの支払うべき金額から差し引かれるべきである。

(三)  弁護士費用に対する遅延損害金について

第一審原告らは、弁護士費用についても本件事故発生時からの遅延損害金の支払を請求しているが、第一審原告らにおいてまだその支払を約したのみであるから、第一審被告らにいまだ遅延損害金を支払うべき義務はない。

(四)  逸失利益の算出について

逸失利益の算出については、全年令平均給与額を基準として、ライプニッツ係数を用いて算出すべきである。

(五)  当審における第一審原告らの主張は争う。

理由

一  引用の原判決事実摘示中、第一審原告ら主張の請求原因1の(一)、(二)の事実及び(三)のうち、第一審原告ら主張の場所で加害車と被害車が衝突したこと(本件事故)は当事者間に争いがない。

二  そこで本件事故の態様と双方の過失について判断する。

1  成立に争いのない甲第一、二、七号証、昭和五九年一一月一〇日日本大学工学部職員が撮影した本件事故現場の写真であることに争いがない甲第三号証、昭和六〇年一一月一六日弁護士尾崎敏一が撮影した本件交差点付近の写真であることに争いがない甲第四号証、原審における鑑定人江守一郎の鑑定の結果、証人渡辺雅幸の証言(後記措信しない部分を除く。)、第一審原告渡辺成雄及び第一被告佐藤篤の各本人尋問の結果(いずれも後記措信しない部分を除く。)を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  本件交差点は、国道四九号線(北方)から御代田方面(南方)に通ずる道路(本件市道)と日本大学工学部構内に通ずる道路(以下「日大通路」という。)がほぼ直角に交わる場所で、本件事故当時には信号機が設置されておらず、交通整理もおこなわれていない交差点である。本件市道は、歩車道の区別された車道幅員(約三メートルの路線帯を含む。)約九メートルのアスフアルト舗装された平坦な片側一車線の道路であり、日大通路は、歩車道の区別のない幅員約一〇メートルの道路である。道路は双方とも見通しがよく、本件事故当時の路面は乾燥していた。

(二)  加害車は、本件市道を国道四九号線方面から毎時四〇キロメートル位の速度で南進し、本件交差点の手前約六〇メートル付近の地点に至つたところ、前方左側に駐車車両があり、右前方からは対向車がきていたので、速度を毎時三〇キロメートルに減速しつつ二四メートル程前進し、右対向車と擦れ違つた。加害者は、その際右前方七〇メートル程先から、被害車が対向車線上を進んでくるのを認めたが、そのまま直進するものと考え、左方の交差点入口に停止していた車両に気をとられて被害車の動静に十分な注意を尽くさず、毎時約四〇キロメートルに加速して進行したため、衝突地点の約五・四メートルの手前に至つて始めて自車の右直近から、時速一〇キロメートル位の速度で日大通路の方向に右折しようとしていた被害車を発見し、あわててブレーキをかけたが制動の利かないうちに自車線中央部付近で、自車の左側前部を被害車のフロントカウル付近から後半部分に衝突させ、約二二メートル進行して自車線上左側寄り部分に停止した。

(三)  嘉徳は、ヘルメツトを着用せずに被害車を運転し、本件交差点を右折して日大通路に入ろうとするに当たり、加害車が減速したのをみて、被害車を先に右折させてくれるものと軽信してか、減速しただけで右折進行した結果、加害車の前部を横切り切れず、前記のように加害車により進行方向左側のほぼ直角から衝突させられたもので、被害車は、その前部を加害車の左前輪と泥よけの間に挟まれて引きずられ、半ば倒れた状態で被害車とともに停止し、嘉徳は、そこから約五メートル離れた本件交差点寄りの市道上に転倒し、同日脳挫傷等により死亡した。

(四)  本件事故現場は、ほぼ直線道路であり、交差点付近の見通しはよく、加害車と被害車との間の見通しを遮つて事故の原因となるような障害物は存しない。しかし学生が通学に用いる自動車やバイク等の交通量が多く、交通事故も発生しており、日大においては信号機の設置方を関係当局に要請していた程であるが(本件事故後に設置された。)、本件事故当日は土曜日の昼頃であり、学生の下校時と重なり相当に混雑していた。加害者も被害者も共に同大学の学生であつて日頃より通学途上同交差点を通過しており、同交差点の危険な状況については十分に知つていた。

以上のとおり認められ、右認定に反する甲第一号証(実況見分調書)中の右篤の説明部分、前掲証人及び両本人尋問の結果は、いずれも措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。第一審被告らは、被害車は道路左側を走行し右折の合図もせずいきなり右折してきたのであり、加害者篤において被害車の動向を注意しながら運転していたにもかかわらず、右折を予知し衝突を回避するのは不可能であつたとし、前掲甲第一号証(実況見分調書)中の篤の説明部分及び前掲佐藤篤本人尋問の結果中には右主張に沿う部分がある。しかしながら、前掲鑑定人江守一郎の鑑定結果によると、衝突時の加害車の速度は時速約四〇キロメートル、被害車の速度は同一〇キロメートルであること、衝突点からスリツプ痕の印象までの距離は三・六メートル、スリツプ痕が印象され始めの加害車の速度は、ほぼ衝突時の速度に等しいこと、加害者が被害車との衝突の危険を認めたのは、スリツプ痕の着き始めから九メートル手前、衝突点から五・四メートル手前であることが認められる。そして被害車が道路左側より右折を開始した点から衝突点までは道路の幅員からみて六メートルないし七メートルあると認められるので、被害車が右距離を走行する間にこの四倍の速度で進行する加害車は二四メートルないし二八メートル走行したことになるから、加害者が衝突の危険を覚知するまでの一八・六メートルないし二二・六メートルの間は全く被害車の動向を見ていなかつたことになるのであつて、被害車を見ていたが右折の合図はなくいきなり右折を開始したという第一審被告篤の原審における供述は信用することができない。

2  以上の事実に基づいて両者の過失の割合を検討するに、まず被害者嘉徳においては、右折に際しあらかじめ交差点の手前三〇メートルのところから道路中央線部分に寄り、かつ、右折の合図を出しながら徐行して進行し、対向車線を直進して来る車両のある場合には、交差点の中央付近において一旦停止し、直進車を通過させその安全を確認してから右折すべき義務があるにもかかわらず、少なくとも右嘉徳において対向車に対する状況の確認及び交差点中央付近における一時停止を怠つたことは明らかであり嘉徳の過失も決して少ないとはいえない。しかしながら他方、本件交差点は信号機がない交差点であつたが、日頃より多数の学生が自動車、原動機付自転車等で出入りする場所であり、交通事故発生の危険度の高い交差点であるから、自動車を運転する者は原動機付自転車などの二輪車の動向には十分に注意する必要があり、篤もそのことはよく承知しているはずであるにもかかわらず、右折車の有無及びその動向に注意を払わず、加えて交差点の手前において急に時速を四〇キロメートルに加速したものであつて、いかに直進車に優先通行が許されているからといつても、右折車の有無の確認を怠り、漫然と加速した過失もまた軽視することのできないものである。これらの事情を総合勘案すると、前示のように、当時着用は義務付けられてはいなかつたものの損害の拡大を防止するために望ましいとされていたヘルメツトを嘉徳が着用していなかつたため損害が拡大したと認めるに足りる証拠はないが、仮にあつたとしても、右両者の過失の割合は、加害者篤が四・五、被害者嘉徳が五・五とするのが相当であると判断される。

三  そうすると、第一審被告篤は、後記損害についてその四割五分の損害賠償義務があり、同定一が加害車の運行供用者であること及び第一審被告組合が、加害車につき第一審被告定一との間に、同人を被保険者として本件事故発生日を保険期間内とする保険金五〇〇〇万円の自動車共済契約を締結していることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右定一は、本件事故当時日大工学部三年生であつた篤の父であるが、資力のないことが認められるから、第一審被告組合は、自賠法第三条に基づく損害賠償額の支払義務がある。

四  そこで進んで、損害額について判断する。

1  逸失利益

前掲渡辺雅幸の証言、同渡辺成雄本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、嘉徳は、本件事故当時満二〇歳九か月の健康な男性で、日大工学部三年生であつたことが認められるので、本件事故により死亡しなければ、同大学卒業後満二二歳から六七歳に達するまでの四五年間稼働可能であり、その間、昭和五八年度の賃金センサス第一巻第一表に掲げる企業規模計及び産業計の新制大学卒男子労働者の全年齢平均給与額(月額金二九万一〇〇〇円、特別給与額年額金一二三万一九〇〇円、合計年額金四七二万三九〇〇円)を下迴らない額の収入を得られたものと推認されるから、これから生活費として収入の無い学生について一般に相当とされている五割(本件において特に四割とすべき合理的理由は認められない。)を控除することとし、さらに右のような全年齢全平均給与額を基準として中間利息を控除して逸失利益を算出する場合には、ライプニッツ係数を用いるのが一般的には相当とされているので、この方式により同人の逸失利益の原価格を算定すると、その合計額は金三八〇七万八四二五円となる(円未満端数切捨て。以下同じ。)。

4723900×0.5×(17.98101571-1.85941043)=38078425.59

2  嘉徳の慰謝料

本件事故の態様その他以上認定の諸般の事情を総合すると、嘉徳の死亡による慰謝料は、金一三〇〇万円をもつて相当するものと判断される。

3  第一審原告らの支出した葬祭費、墓碑建立費

(一)  原審証人渡辺雅幸の証言によつて真正に成立したものと認める甲第八ないし第一〇号証及び右証言によると、第一審原告らは、本件事故により嘉徳が死亡した結果、福島県郡山市から埼玉県狭山市の第一審原告ら方へ遺体移送のため金二〇万五四〇〇円を、葬祭費に金六九万円を、仏壇仏具の購入に金五八万円を各支出し、これを第一審原告らが平等に負担したことが認められ、これらはいずれも本件事故と相当因果関係にある損害ということができる(合計金一四七万五四〇〇円)。

(二)  前掲証人渡辺雅幸の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一一ないし第一五号証及び右証言によると、第一審原告らは、嘉徳を祭るため函館市より先祖の墓を埼玉県富士見市にある性蓮寺に移し、同寺への寄進をも含め金五八五万円を支出したことが認められるが、これらの費用は死者を祭るために通常必要とする限度を超えるものであると認められるので、本件事故と相当因果関係にある損害とは認めることはできない。

4  第一審原告らの固有の慰謝料

前掲第一審原告成雄の本人尋問の結果によれば、第一審原告らは本件事故により二男嘉徳を失い、精神的に多大の苦痛を被つたことが認められるところ、嘉徳本人の慰謝料として前記のように金一三〇〇万円を認めているので、第一審原告らの固有の慰謝料としては、諸般の事情を酌み、第一審原告ら各自につき金一五〇万円をもつて相当とするものと判断される。

5  以上、第一審原告ら側に生じた損害は、嘉徳の分が金五一〇七万八四二五円、第一審原告らの分が計金四四七万五四〇〇円、合計金五五五五万三八二五円となるので、これを前示の過失割合(嘉徳が五・五、第一審被告篤が四・五)で過失相殺すると、その残額は金二四九九万九二二一円となる。

6  損害の填補

第一審原告らが第一審被告らからその主張する治療費等の金員を受領したことは、当事者間に争いはなく、また第一審原告らは治療費の請求をしていないところであるところ、治療費に関する第一審被告らの主張は、右のように過失相殺がされる場合には、第一審被告らが支払つた治療費金一四万二三六五円の五割五分相当額である金七万八三〇〇円は、右過失相殺後の残額から控除すべきであるというにある。成立に争いがない乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、嘉徳は本件事故後直ちに太田総合病院に収容されたが、診療実日数僅か一日で死亡したため、治療費も右一四万二三六五円のみであつたものと認められる。したがつて、このような場合には、治療費につき過失相殺すべき右金七万八三〇〇円は、いわば第一審被告らの過払いともいうべきものであるから、右の残額から控除するのが相当である(控除後の残額金二四九二万〇九二一円)。次に慰謝料として支払われたとする合計金一一万五〇〇〇円については、嘉徳に対する見舞金ないし、その霊を弔う趣旨で提供されたものであるとするには、いささか高額に過ぎる感はあるけれども、これをもつて慰謝料とか、その性質を有するものと解するのは相当でない。右認定を左右するに足りる証拠はない。

7  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、第一審原告らは、第一審原告ら代理人らに本件訴訟及び控訴の提起追行を委任し、報酬の支払いを約していることが認められるところ、前示認容額、本件事案の難易、審理経過その他本件における諸般の事情を総合し、かつ、本件事故発生の日である昭和五九年一一月一〇日から今後なお相当の期間にわたつて右費用についても民法所定の年五分の割合による遅延損害金が付され、その結果としてこの判決において認容した金額を相当額上回ることとなることを考慮のうえ、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、第一審原告ら各自につき金一一〇万円をもつて相当とするものと判断される。

五  第一審原告らの損害賠償請求権

前掲第一審原告成雄の尋問結果によれば、第一審原告らは嘉徳の死亡により各二分の一の割合で同人の権利義務を承継したことが認められるから、第一審原告らの取得した損害賠償請求権は、以上の計算どおり第一審原告ら各自につき金一三五六万〇四六〇円であるということができる。

六  以上の次第で、第一審原告らの第一審被告らに対する本訴請求は、第一審被告らが各自第一審原告らに対し、それぞれ金一三五六万〇四六〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五九年一一月一〇日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきことを求める限度で理由があるところ、すでに原判決において、第一審被告らに対し、各自第一審原告らに対しそれぞれ金一一八三万七九一九円及びこれに対する前示遅延損害金を支払うべきことを命じているので、第一審原告らの控訴に基づきそれぞれにつきその差額金一七二万二五四一円及びこれに対する前示遅延損害金について改めて支払を命じる限度において原判決を変更し、その余の部分は理由がないものとして棄却することとし、第一審被告らの控訴は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のように判決する。

(裁判官 安國種彦 清水湛 伊藤剛)

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